サファリの手帖
MasaiBeads
マサイマラで凧を揚げた。
凧糸100メートルが全部出て、凧は 「もっと糸をくれ!」 とばかりに、
草原上空を飛び続けた。


マサイマラ国立保護区西端の境界は、大地溝帯の一部が台地となって連なる、その断崖沿いに引かれている。西の端に位置する「キーチュワ・テンボ・キャンプ KTC」に泊まり、オローオロロ・ゲート手前を西に登るとそこは保護区の外――自由にクルマから降りても良いことになる。
僕たちはロッジ所属ガイド・ジェイムズの案内で保護区に隣接する彼の私有地へ行き、マサイマラの草原を遥かに見晴らしながら、日本から持参した武者絵付六角凧を揚げた。
六角凧は直径二尺(約60cm)、新潟の和凧専門店「いか屋」から取り寄せた厚手の和紙製。丈夫で長持ちするものだけれど、この凧には特記すべき利点がある。竹の骨組みから1本が取りはずせるようになっていて、これをはずすとクルクルと縦長に丸められる。スーツケースにも簡単に収まり、持ち運びに大変便利なのだ。
凧揚げ当日はご覧の通りの雨模様。マサイマラにありがちな夕刻のにわか雨が近づいていた。
この雨は西方に位置するビクトリア湖に端を発する。世界第二の面積を有する湖から蒸発し運ばれた水分が地溝帯の断崖を駆け上がる気流とぶつかり、断崖沿いに降り落ちる。だから、この地域は一年を通じて雨量があり、豊かな緑が動物たちを多彩に育むことができるのだ。
その夕立の前触れである風を受け、二尺の六角凧はスルスルと舞い上がった。凧糸を繰り出すこちらの手元ももどかしげに、遠く上へと急ぎ登る。あっと言う間に糸巻きが裸になる。糸を伝わって来る重い風の手応えは<もっと糸をよこせ!>とむずかる、凧のおこり泣きにも思われた。
ガイドのジェイムズは地元のマサイだ。あがりきった凧を見上げて、愉快そうに笑ってくれる。こんな遊びはしたことがないと言うから、裸になった糸巻きを渡す。ジェイムズは糸巻きを両手に持ち、風の手応えが漠とした予想を上回ったのだろう、握る指にぐっと力を加えたようだ。そして、凧のいる空を見上げて、凧より更に遠くを見つめるような眼差しをして、
「空の上では風はこんなに力を持っているのか」と、呟いた。

動物サファリの合間にアフリカの風と遊ぶ。
――そんなことも、偶には楽しい。
Kite-Masai Mara
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